部門だより

~【平成24年度】病因・病態解析部門 一年の歩み~

東日本大震災から2年。復興が進む中、原発問題に起因する電力不足、不安定な政局等々、平成24年度も混とんとした1年であったように思います。しかしながら、困難な状況にあっても不屈の精神で前を向いて歩まれる被災地の方々や、苦しい病気と戦いながらも、新しい治療薬を待ちながら日々頑張って過ごされる患者様方に突き動かされるように、切磋琢磨しながら頑張ってきた当教室の1年をご紹介させていただきます。

私どもが教室のメインテーマとして取り組んでいるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の総合対策がスタートして2年がたち、全国の各大学・研究機関と連携の下、順調に進んでおります。中でも、HTLV-1関連脊髄症(HAM)の患者登録システム「HAMねっと」の立ち上げと、HAM治療薬の医師主導治験の準備が、私どもにとって今年の大きな出来事だったと思います。
「HAMねっと」(http://hamtsp-net.com/)は、HAM患者の登録システムで、患者様にご協力いただき、個人データ、病歴やこれまで受けた治療、現在の状態などの情報をご提供いただき、データバンクとして蓄積していくシステムです。一方で、提供していただいたデータを基に、疫学調査の結果や研究の進捗状況などをウェブ上で公開したり、ご登録いただいた患者様には、イベントの案や“HAMねっと通信”の配布など、有益な情報を提供できるようにしています。
HAMのような希少疾患では、治験などに必要な患者数を集めることも難しく、治療研究に必要な情報を集めることも難しいため、このように患者情報を集約できるシステム作りは非常に重要であり、今後の治療薬開発にむけた足がかりとなればと思っています。実際にHAMの自然経過や家族集積性など、これまでなかなか得ることのできなかった疫学的データの解析も進んでおります。
患者会や全国の先生方の甚大なご努力があり、開設4ヶ月間で全国から約400人の申し込みがありました。
また、ATLの新しい治療薬「ポテリジオ」の発売は、HTLV-1研究においても大きな話題となりましたが、HAMへの臨床応用に向けた治験を医師主導で行う準備に取り掛かっています。自身で治験プロトコールを作成し、PMDA(医薬品医療機器総合機構)とやりとりをするのは、非常に労力を要する試行錯誤の毎日でしたが、無事に対面助言も終了し、研究費さえ確保できればいつでも治験を実施出来る状況にまで到達しております。
大学のご協力をいただき開設させていただいた「HAM専門外来」も徐々に来院患者数が増えております。特に、HTLV-1総合対策の柱である妊婦健診での抗体検査実施に伴い、キャリアと診断された方々のご相談も増えております。キャリアの方々にHTLV-1のこと、関連疾患のことを正しく理解していただくことが、HTLV-1撲滅への鍵となるため、できるだけ時間を割き、産婦人科や小児科の先生方と連携をとりながら、丁寧に診療しております。何かお困りのことがございましたら、いつでもご相談ください。

また当研究部門では、関節リウマチから発見した新規分子であるシノビオリンの研究、再発性多発軟骨炎の専門外来と病態解明・治療法の確立、線維筋痛症などの慢性疼痛疾患のバイオマーカー等の研究も展開しています。難病で苦しむ患者様に一日でも早く朗報をお届けすることが出来ますよう、研究室スタッフ一同取り組んで参りますので、今後とも御指導御鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。