研究内容のご紹介

病因病態解析部門の研究内容

臨床に根差したRare Diseases Research

我々は、神経難病であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)の病態解明に基づいた診断および治療の向上を目指した研究を主なテーマの一つとして日々取り組んでいます。

診断については、疾患活動性を的確に評価し、”Window of opportunity”(発症早期の適切な治療機会)を逃さないことが重要です。これまでに我々は自然経過と、あるバイオマーカーの値から、HAMには4つの病型(急速進行型、慢性進行性活動型、慢性進行性非活動型、慢性軽症型)が存在することを見出しており、各病型に応じた適切な治療を行うことが予後の改善に重要であると考えています。今後、この考え方をベースにHAMの診療ガイドラインの作成などに貢献し、全国どこでもある一定以上の診断・治療が行われることを目指します。

また治療については、現在行われている経口ステロイドによる治療の長期予後改善効果を確認しているものの、進行を阻止できず、まだまだ不十分であります。したがって、新規治療薬の開発は必­須と考えています。薬剤開発にはシーズ探索から臨床試験に至るまで様々なフェーズがあり、そのなかで我々は化合物ライブラリーを用いたリード化合物スクリーニングから既存の薬剤の臨床治験まで幅広く行っています。この非常に時間のかかる新規治療薬の開発は、いかにスムーズに進めるかが大事であり、他の大学、研究機関および企業の協力を得て、一連の流れをスムーズに進める仕組みづくりを試みています。さらに我々はHAMのみならず、再発性多発軟骨炎や関節リウマチ、慢性疼痛、慢性疲労症候群といった難治疾患に対しても、その病因・病態へ迫り、画期的な治療法の開発へ結びつける研究に取り組んでいます。

難治性疾患の病因・病態解明に対する取り組み

ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、ブドウ膜炎、シェーグレン症候群などの免疫性疾患を引き起こす原因ウイルスです。その病態は、HTLV-1感染細胞に起因した過剰な免疫応答によりますが、HTLV-1が宿主に免疫異常を誘発する機構は未だ不明です。

我々は最近、HAM患者においてHTLV-1の感染により異常となったT細胞を同定し、その細胞が増加して過剰な免疫病態を引き起こす原因となっている事を報告しました。我々は、このHAM病原性T細胞に着目し、HTLV-1がT細胞に感染して可塑的な変化を誘導する機構や、その異常T細胞が脊髄病変を惹起し、慢性炎症を増幅させる機構を解析して、HAMの病態の主軸を明らかにする研究を行っています。さらに、この病原性T細胞や炎症増幅因子を標的とした発症予防法、治療法および診断法を開発し、新規の革新的な医療技術の創出を目指しています。

疾患モデル動物の提供で遺伝子研究の明日を拓く

医薬品開発はゲノム創薬の時代に突入しました。こうした変化により、疾患モデル動物の重要性はいままでになく高まっています。すなわち遺伝子の作用メカニズムに基づく論理的な創薬開発が次代の要請となり、有効性・安全性面からもより効果的な創薬開発の展開が活発化してきたのです。こうした時代を先取りし、私たちは実験動物、特に遺伝子改変動物(トランスジェニックマウス、ノックアウトマウス)を用いて、難治性疾患の原因解明へとアプローチします。

これまでに私たちは、関節リウマチより単離した新規遺伝子「シノビオリン」のトランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し、これらのマウスを解析することでシノビオリンが関節リウマチの原因分子の1つであることを解明してきました。また、シノビオリンが関節リウマチだけでなく肝線維症の原因分子の1つとなることも最近明らかとしました。このシノビオリンの機能を標的とした創薬開発は、すでに現実化しつつあります。

このように私たちは、「疾患モデル動物の作出とそのモデル動物を用いた難治性疾患の画期的治療法の探索」を主軸に掲げ、関節リウマチやHAMなど様々な難治性疾患の原因を解明し治療法を開発することを使命とし、日々研究に取り組んでいます。